弁護士に相談すべき相続トラブル5選 ── 遺留分・使い込み・争族を防ぐには

「相続で揉めるなんて、テレビドラマの中だけの話」──そう思っていませんか。

残念ながら、相続トラブルは決して他人事ではありません。裁判所の統計によると、家庭裁判所に持ち込まれる遺産分割事件は年間1万件を超えています。しかも、その多くは「ごく普通のご家庭」で起きています。

本シリーズ最終回では、弁護士に相談すべき5つの相続トラブルをご紹介します。「まだ大丈夫」と思っているうちに、知識だけでも持っておいてください。


トラブル1:遺留分を侵害されている

遺留分とは

遺留分とは、法律で保障された相続人の最低限の取り分のことです。遺言書で「全財産を長男に相続させる」と書かれていたとしても、他の相続人には遺留分として一定の割合を請求する権利があります。

遺留分の割合は、おおまかに以下のとおりです。

  • 配偶者・子:法定相続分の2分の1
  • 父母(直系尊属)のみの場合:法定相続分の3分の1
  • 兄弟姉妹:遺留分なし

たとえば、遺産が6,000万円で相続人が子2人の場合、各人の遺留分は6,000万円×2分の1(遺留分の割合)×2分の1(法定相続分)=1,500万円です。

遺留分侵害額請求

遺留分を侵害された相続人は、遺留分侵害額請求を行い、侵害額に相当する金銭の支払いを求めることができます(民法第1046条)。

ここで非常に重要なのが時効です。遺留分侵害額請求権は、相続の開始と遺留分侵害を知ったときから1年以内に行使しなければ、時効により消滅します。また、相続開始から10年を経過した場合も消滅します。

1年はあっという間です。遺言書の内容を見て「おかしい」と感じたら、すぐに弁護士に相談してください。

トラブル2:預貯金の使い込みが疑われる

親御さんの生前に、同居していた相続人が預貯金を使い込んでいた──これも非常に多いトラブルです。

調査方法

預貯金の使い込みが疑われる場合、以下の方法で調査できます。

  • 金融機関への取引履歴照会:相続人であれば、被相続人の口座の取引履歴を取り寄せることができます。過去10年分程度の履歴を確認しましょう。
  • 弁護士会照会(23条照会):弁護士が弁護士会を通じて、金融機関や関係各所に照会をかける制度です。個人では得られない情報を取得できる場合があります。

使い込みが判明した場合

使い込みが立証された場合、使い込んだ相続人に対して不当利得返還請求または不法行為に基づく損害賠償請求を行うことができます。

ただし、「親の生活費として使った」「親に頼まれて引き出した」と反論されることも多く、立証には専門的な知識と証拠の収集が必要です。弁護士のサポートなしに進めるのは困難でしょう。

トラブル3:遺産分割協議がまとまらない

相続人の間で話し合いがまとまらない場合、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。

遺産分割調停の流れ

  1. 申立て:相続人の一人が、家庭裁判所に調停を申し立てます。
  2. 調停期日:調停委員を介して、相続人が話し合います。通常、月1回程度のペースで行われます。
  3. 合意成立:全員が合意すれば調停成立。調停調書が作成されます。
  4. 不成立の場合:調停が不成立になると、自動的に審判に移行し、裁判官が分割方法を決定します。

調停から解決まで1年〜2年程度かかることも珍しくありません。その間、不動産の売却や活用ができず、固定資産税だけが発生し続けるケースもあります。

弁護士に依頼すれば、調停への同席や書面の作成はもちろん、調停前の段階での交渉も代行してもらえます。

トラブル4:認知症の相続人がいる

相続人の中に認知症などで判断能力が不十分な方がいる場合、そのままでは遺産分割協議を行うことができません。判断能力のない方が行った法律行為は無効になるためです。

この場合、家庭裁判所に成年後見人の選任を申し立てる必要があります。成年後見人が本人に代わって遺産分割協議に参加します。

ただし、成年後見人の選任には数ヶ月かかることがあり、相続手続き全体が遅れる原因になります。親御さんの判断能力が低下してきたと感じたら、相続発生前から備えておくことが大切です。

トラブル5:相続人の一人が行方不明

相続人の中に連絡が取れない方がいる場合、遺産分割協議ができません。

この場合、以下の方法を検討します。

  • 不在者財産管理人の選任:家庭裁判所に申立てを行い、行方不明の相続人に代わる管理人を選任してもらいます。
  • 失踪宣告:7年以上生死不明の場合、家庭裁判所に失踪宣告を申し立てることで、法律上は死亡したものとみなされます。

いずれも法的手続きが必要であり、弁護士への相談が不可欠です。

弁護士と他の士業の違い

相続に関わる専門家は弁護士だけではありません。それぞれの役割を整理しておきましょう。

専門家主な役割
弁護士相続人間の交渉代理、調停・訴訟の代理、遺留分請求、遺産分割協議の代理
税理士相続税の申告・節税対策
司法書士相続登記(不動産の名義変更)
行政書士戸籍収集、遺産分割協議書の作成

重要なのは、相続人間で争いがある場合の交渉や法的手続きは、弁護士にしかできない(弁護士法第72条)という点です。税理士や司法書士に「兄弟間の交渉をお願いしたい」と頼んでも、法律上引き受けることはできません。

逆に言えば、争いがなく手続きだけを進めたい場合は、税理士や司法書士に依頼するほうが費用を抑えられることもあります。状況に応じて適切な専門家を選びましょう。

弁護士に相談するタイミング

「弁護士に相談する」というと、大ごとに感じるかもしれません。しかし、相続トラブルは早期に相談するほど解決しやすいものです。

以下のサインがあれば、早めに弁護士に相談されることをおすすめします。

  • 遺言書の内容に納得がいかない
  • 特定の相続人が遺産を独占しようとしている
  • 預貯金の不自然な引き出しがある
  • 遺産分割の話し合いが3ヶ月以上進まない
  • 相続人同士の関係が悪化してきた

まとめ

トラブルポイント
遺留分侵害知ってから1年以内に請求(時効に注意)
預貯金の使い込み取引履歴・23条照会で調査
協議がまとまらない調停→審判の流れ
認知症の相続人成年後見人の選任が必要
行方不明の相続人不在者財産管理人の選任

相続は、ご家族の人生に大きな影響を与える出来事です。トラブルの芽は早いうちに摘んでおくことが、ご家族の関係を守ることにつながります。

出典:裁判所「遺産分割調停」(https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_12/index.html)、弁護士法第72条


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