第16回:相続放棄の手続きと注意点 ── 3ヶ月の期限を過ぎたらどうなる?

「父に借金があったようなのですが、相続放棄はできますか?」

相続では、プラスの財産だけでなく、借金や保証債務などのマイナスの財産も引き継ぐことになります。マイナスの財産のほうが大きい場合、相続放棄という選択肢があります。

ただし、相続放棄には厳しい期限があり、うっかり行動を間違えると放棄できなくなるケースもあります。今回は、相続放棄の手続きと注意点を詳しく解説します。


相続放棄とは

相続放棄とは、被相続人(亡くなった方)の財産を一切引き継がないことを家庭裁判所に申し出る手続きです。

相続放棄が認められると、その人は「最初から相続人ではなかった」ものとして扱われます。つまり、プラスの財産(預貯金・不動産など)もマイナスの財産(借金・保証債務など)も、一切引き継ぎません。

「借金だけ放棄して、預貯金は受け取る」ということはできない点にご注意ください。全部を引き継ぐか、全部を放棄するか、の二択です。

(出典:裁判所「相続の放棄の申述」)


手続きの流れ

ステップ1:必要書類を準備する

  • 相続放棄の申述書(裁判所のウェブサイトからダウンロード可能)
  • 被相続人の住民票除票または戸籍附票
  • 被相続人の死亡が記載された戸籍謄本
  • 申述人(放棄する人)の戸籍謄本
  • 収入印紙800円分
  • 連絡用の郵便切手(裁判所により金額が異なります)

相続人の順位によって追加書類が必要になることがあります。

ステップ2:家庭裁判所に申述する

相続放棄の申述先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。

福岡県内の場合、北九州市であれば福岡家庭裁判所小倉支部、福岡市であれば福岡家庭裁判所が管轄となります。

申述書と必要書類を提出すると、裁判所から「照会書(回答書)」が届きます。本当に放棄の意思があるか、相続財産を処分していないかなどの質問に回答して返送します。

ステップ3:受理通知が届く

問題がなければ、家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が届きます。これで相続放棄が完了です。

債権者(お金を貸した人)に放棄を証明する必要がある場合は、「相続放棄申述受理証明書」を別途申請して取得します。


3ヶ月の期限(熟慮期間)に要注意

相続放棄ができるのは、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内です。この期間を「熟慮期間」といいます。

「相続の開始があったことを知った時」とは、通常は被相続人が亡くなったことを知った日です。ただし、先順位の相続人が全員放棄したことで自分が相続人になった場合は、「自分が相続人になったことを知った時」が起算点になります。

3ヶ月で判断できない場合は?

被相続人の財産や借金の全容がわからず、3ヶ月では判断が難しい場合もあります。そのときは、3ヶ月の期限が来る前に家庭裁判所に「期間伸長の申立て」を行うことで、熟慮期間を延長してもらえる可能性があります。

期限を過ぎてからでは手遅れですので、迷っている場合は早めに期間伸長を検討してください。

(出典:民法第915条、第938条)


相続放棄しても受け取れるもの

相続放棄をしても、以下のものは受け取ることができます。

生命保険の死亡保険金

受取人として指定されている場合、死亡保険金は「受取人固有の財産」であり、相続財産ではありません。そのため、相続放棄をしても受け取ることができます。

ただし、相続放棄をした人は「相続人」ではなくなるため、第13回で解説した「500万円×法定相続人の非課税枠」は使えなくなります。受け取った保険金全額が相続税の課税対象になる点にはご注意ください。

遺族年金

遺族基礎年金や遺族厚生年金は、相続財産ではなく遺族固有の権利です。相続放棄をしても受給できます。

香典・弔慰金

社会通念上相当な範囲の香典や弔慰金は、相続財産に含まれないとされています。


要注意:こんなことをすると放棄できなくなる

相続放棄をする前に以下のような行為をすると、「法定単純承認」といって、相続を承認したものとみなされ、もはや放棄ができなくなります。

相続財産を使ってしまう

被相続人の預貯金を引き出して使う、不動産を売却する、車を処分する、といった行為は「相続財産の処分」にあたります。

相続財産を隠す

財産の存在を隠したり、こっそり消費したりした場合も、単純承認とみなされます。

注意が必要なグレーゾーン

  • 被相続人の預金から葬儀費用を支払うこと → 社会通念上相当な範囲であれば認められるケースもありますが、リスクがあります
  • 被相続人の遺品を形見として受け取ること → 経済的価値が高いものは「処分」と判断されるおそれがあります

迷った場合は、何もしないうちに専門家に相談することが最も安全です。

(出典:民法第921条)


借金があるかわからない場合の判断方法

被相続人にどれだけの借金があるかわからない、というケースは少なくありません。以下の方法で調査できます。

1. 信用情報機関への照会

  • CIC(クレジット系)
  • JICC(消費者金融系)
  • 全国銀行個人信用情報センター(銀行系)

それぞれに対して、被相続人の信用情報の開示請求を行うことで、借入残高を確認できます。

2. 届いている郵便物の確認 金融機関からの督促状や返済予定表がないか確認します。

3. 限定承認という選択肢 借金があるかどうかわからない場合は、「限定承認」という制度もあります。これは、プラスの財産の範囲内でのみマイナスの財産を引き継ぐ方法です。ただし、相続人全員で行う必要があり、手続きも複雑なため、利用件数は多くありません。


放棄の判断は慎重に、でも迅速に

相続放棄は、一度受理されると原則として撤回できません。また、3ヶ月の期限は想像以上にすぐやってきます。

「借金がありそうだけど、どうすればいいかわからない」「放棄すべきか迷っている」という方は、できるだけ早く専門家に相談することをおすすめします。

株式会社玄風では、不動産を含む相続のご相談を承っております。相続放棄をすべきかどうかの判断や、不動産に関する情報提供も含め、顧問弁護士と連携してサポートいたします。お気軽にお問い合わせください。


次回の第17回では、「家族信託」について、認知症になる前に知っておきたい財産管理の仕組みを解説します。

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