第19回:相続と確定申告 ── 準確定申告・譲渡所得・扶養控除を整理
「相続税の申告は知っていたけど、確定申告も必要なんですか?」
相続が発生すると、相続税の申告とは別に、「確定申告」が必要になるケースがあります。被相続人(亡くなった方)の所得税に関する「準確定申告」、相続した不動産を売却した場合の「譲渡所得の申告」、そして相続人自身の確定申告にも影響が出ることがあります。
今回は、相続にまつわる確定申告を整理して解説します。
準確定申告とは
亡くなった方の所得税を申告する手続き
確定申告は通常、1月1日〜12月31日の1年間の所得について、翌年の2月16日〜3月15日に行います。しかし、年の途中で亡くなった方の場合は、相続人がその年の1月1日から亡くなった日までの所得を申告・納税する必要があります。これを「準確定申告」といいます。
期限は「4ヶ月以内」
準確定申告の期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内です。相続税の申告期限(10ヶ月)よりも短いので、注意が必要です。
たとえば、1月15日にお父さんが亡くなった場合、準確定申告の期限は5月15日です。
準確定申告が必要なケース
亡くなった方が以下に該当する場合、準確定申告が必要です。
- 事業所得や不動産所得があった方(自営業、賃貸経営など)
- 給与収入が2,000万円を超えていた方
- 2か所以上から給与を受けていた方
- 公的年金等の収入が400万円を超えていた方
- 医療費控除など、還付を受けられる場合
年金収入のみで年400万円以下、かつ年金以外の所得が20万円以下の方は、原則として申告不要です。ただし、医療費が多くかかっていた場合は、還付を受けるために申告したほうが得なこともあります。
誰が申告するの?
準確定申告は、相続人全員の連署で行うのが原則です。申告書には「確定申告書 付表(亡くなられた方の準確定申告についての付表)」を添付し、各相続人の氏名・住所・相続分を記載します。
(出典:国税庁「No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)」)
相続した不動産を売却したときの確定申告
譲渡所得の申告
相続した不動産を売却した場合、その売却益(譲渡所得)に対して所得税・住民税がかかります。この申告は、売却した年の翌年の確定申告で行います。
譲渡所得の計算式:
譲渡所得 = 売却価格 −(取得費 + 譲渡費用)
取得費はどう計算する?
相続した不動産の「取得費」は、被相続人が取得したときの購入価格を引き継ぎます。つまり、亡くなったお父さんが30年前に2,000万円で買った土地であれば、取得費は2,000万円(建物は減価償却を考慮)がベースとなります。
ただし、古い不動産の場合、購入時の契約書が見つからないことも少なくありません。取得費がわからない場合は、売却価格の**5%**を取得費として計算する「概算取得費」を使うことになります。売却価格が3,000万円なら取得費は150万円です。この場合、譲渡所得がかなり大きくなり、税額も膨らむため、できる限り当時の購入資料を探すことが重要です。
税率は所有期間で変わる
譲渡所得の税率は、不動産の所有期間によって異なります。所有期間は、被相続人が取得した日から起算します。
| 所有期間 | 区分 | 税率(所得税+住民税+復興特別所得税) |
|---|---|---|
| 5年超 | 長期譲渡所得 | 約20.315% |
| 5年以下 | 短期譲渡所得 | 約39.63% |
相続した不動産の場合、被相続人の所有期間を引き継ぐため、親が長年所有していた不動産であれば長期譲渡所得として低い税率が適用されることが多いです。
使える特例
相続不動産の売却では、以下の特例が使える場合があります。
- 被相続人の居住用財産の3,000万円特別控除(第7回で解説済み)
- 取得費加算の特例:相続税を支払った場合、その一部を取得費に加算して譲渡所得を減らせる制度です。相続税の申告期限の翌日から3年以内に売却した場合に適用できます。
(出典:国税庁「No.3208 長期譲渡所得の税額の計算」「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」)
扶養していた親が亡くなった場合
扶養控除への影響
同居していた親を扶養に入れていた方は、親が亡くなった年の扶養控除について確認が必要です。
結論から言うと、亡くなった年は扶養控除を受けることができます。扶養親族に該当するかどうかは、その年の12月31日時点の状況で判断するのが原則ですが、年の途中で亡くなった場合は、亡くなった時点の状況で判断します。
つまり、亡くなった時点で扶養の要件を満たしていれば、その年の扶養控除は適用できます。翌年からは扶養控除が使えなくなるため、翌年以降の税負担が増える可能性があることも念頭に置いておきましょう。
配偶者が亡くなった場合
配偶者が亡くなった場合も同様に、亡くなった年は配偶者控除または配偶者特別控除を受けることができます。
(出典:国税庁「No.1180 扶養控除」「No.1191 配偶者控除」)
相続と確定申告のスケジュール整理
相続が発生した後の申告関連スケジュールをまとめると、次のようになります。
| 期限 | 手続き |
|---|---|
| 4ヶ月以内 | 準確定申告(被相続人の所得税) |
| 10ヶ月以内 | 相続税の申告・納付 |
| 翌年2〜3月 | 相続人自身の確定申告(不動産売却がある場合等) |
特に準確定申告の4ヶ月という期限は見落としやすいので、相続が発生したらすぐに被相続人の所得状況を確認することが大切です。
確定申告は「知らなかった」では済まない
「そもそも準確定申告が必要だと知らなかった」という方は少なくありません。しかし、申告義務がある場合に申告しなければ、無申告加算税や延滞税のペナルティが発生します。
また、相続不動産の売却時に使える特例を知らなかったために、本来より多くの税金を払ってしまったというケースもあります。
相続に関する確定申告は、通常の確定申告より複雑です。不安がある場合は、早めに税理士に相談することをおすすめします。
株式会社玄風では、相続不動産の売却に関するご相談を日々承っております。「相続した不動産を売りたいが、税金がどうなるか心配」「準確定申告が必要かどうかわからない」といったお悩みがあれば、顧問弁護士や提携税理士と連携してサポートいたしますので、お気軽にご相談ください。
次回の第20回は、シリーズのまとめとして「相続のよくある質問10選」をお届けします。実際にお客様からいただく質問をもとに、わかりやすくお答えします。